放射線モニタリング情報Monitoring information of environmental radioactivity level
原子力規制委員会

5 月27 日「当面の考え方」における「学校において『年間1 ミリシーベルト以下』を目指す」ことについて(平成23年7月20日)

平成23年7月20日
文部科学省

5月 27 日に文部科学省が示した「学校において、当面、年間1ミリシーベルト以下を目指す」ということについて、放射線防護の基本的な考え方等を述べつつ、ご説明します。

1.放射線防護の基本的な考え方

国際放射線防護委員会(ICRP)の1977 年勧告では、「放射線被ばくは、社会的、経済的要因を考慮に入れながら、合理的に達成可能な限り、低く抑えるべきである」としているところです(防護の最適化)。

また、同委員会は、2007 年勧告において、「防護の最適化については線量の最小化ではない。最適化された防護は、被ばくによる損害と個人の防護のために利用できる諸機材とで注意深くバランスをとった評価の結果である。したがって、最善の選択肢は、必ずしも最低の線量をもたらすとは限らない」ともしています。

100 ミリシーベルト以下の低い放射線量域での放射線を受けることについては、放射線によるガンのリスクの上昇は確認されておらず、どのレベル以下ならば安全で、どのレベルを超えたら危険という基準はありません。食生活や運動不足など生活習慣等によって引き起こされるリスクへの対処と同じです。

1.「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」とは、どのような内容なのでしょうか。

上記の考え方は学校活動に当てはめた場合においても同様であり、
A.対策をとることの利益 (被ばくをさけることによるリスク低減)
B.対策をとることの不利益 (対策の結果として生じる心身の健康への影響等)
を比較し、B のほうが大きければ、その対策は適切とは言えません。

そのため、学校生活における放射線の防護に当たっては、単に放射線量の低減化だけを考えるのではなく、例えば次のような対策による不利益も考慮する必要があります。

  • 屋外活動を過剰に制限することによる運動不足・肥満・ストレス等による疾病リスクの上昇
  • 高温時期における窓を閉め切った授業や長袖着用による熱中症
  • 水道水(摂取制限なし)の飲用拒否による脱水症状

放射線防護対策と言っても、対策をとることのリスクのバランスを踏まえて、検討しなければならないものです。

例えば、校庭での活動を制限することによってどれほどの線量低減になるかを考えてみましょう。

校庭の空間線量率が毎時0.5 マイクロシーベルトの学校において、それまで1 日4 時間だった屋外活動を2 時間以内に制限しても、そのことによって低減化される年間放射線量は、

  • 制限前 0.5μSv/h × 4h × 200 日= 400μSv = 0.4mSv
  • 制限後 0.5μSv/h ×(0.1×2h + 2h)× 200日= 220μSv = 0.22mSv
    (0.1 は屋内(コンクリート)の係数)

となり、年間0.18 ミリシーベルトの低減にしかなりません。

日本国内で自然放射線の岐阜県の年間1.19 ミリシーベルト*と、神奈川県の年間0.81ミリシーベルト*では、年間約0.4 ミリシーベルト(1.5倍)もの違いがあります。したがって、このような制限によって低減化される放射線量(0.18mSv)は、神奈川県から岐阜県に引っ越して半年経過すると自然に増加する放射線量(0.19mSv)とほぼ同じ程度です。

あるいは、日本とニューヨークの間を飛行機で往復して宇宙から浴びる放射線量(高高度飛行中は7μSv/h 程度として約0.19mSv)とほぼ変わらないと言えます。

* ラドンなどの吸入分を除く

3.「学校において年間1 ミリシーベルト以下を目指す」とは

被ばくの低減化については、事故収束後においては年間20~1 ミリシーベルトというICRP が提唱する参考レベルを参照しながら、長期的には平常時の一般公衆の線量限度である年間1 ミリシーベルト以下を目指していくものです。

日常生活においては、大地からの放射線や宇宙線等の自然界から受ける自然放射線も存在しています。上記とは別に、世界平均で年間2.4 ミリシーベルト、国内平均で年間1.5 ミリシーベルトの被ばくをしており、放射線被ばくは、自然によるものや医療によるものなど、様々なものによっても起こります。

空間線量率や積算線量の測定では、人工放射線によるものと自然放射線によるものを分けて測定することはできないため、そこで得られる測定値は両方の合計になることに留意が必要です

文部科学省は、5 月27 日に「学校において、当面、年間1 ミリシーベルト以下を目指す」ことを示しましたが、この「年間1 ミリシーベルト以下」は、「暫定的考え方」に替えて屋外活動を制限する新たな目安を示すものではなく、文部科学省として、まずは学校内において、できる限り児童生徒等が受ける線量を減らしていく取組を、この数値目指して進めていくこととしたものです

したがって、年間1 ミリシーベルト以下を目指すことによって、学校での屋外活動を制限する目安を毎時3.8 マイクロシーベルトからその20 分の1 である毎時0.19 マイクロシーベルトに変更するものではなく、この達成のために屋外活動の制限を求めるものではありません。

また、上記のとおり、実際に得られる空間線量率や積算線量の測定値は、人工放射線と自然放射線の合計であることから、今回の事故による影響を評価するに当たっては、通常時の自然放射線(バックグラウンド)を差し引いて考えなければなりません。

文部科学省では、児童生徒等の受ける線量を減らしていくため、土壌に関する線量低減策が効果的となる校庭等の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上の学校を対象として、財政的支援を講じるとともに、福島県内の学校等に配布した積算線量計によって状況を把握し、今後の対策に生かしていくこととしています。

なお、比較的線量の高かった学校等において、教職員に積算線量計を携帯していただき、実際の児童生徒等の受ける線量を測定しており、その結果、年間の積算線量は平均0.3 ミリシーベルトと試算されています。